板金設計の現場で起きていた「小さなストレス」の正体
板金加工の設計業務において、SolidWorksは欠かせない3D CADツールです。しかし、日々の設計作業の中には、繰り返し発生する定型的な入力作業が数多く潜んでいます。その代表格が「ベンド展開補正長」の設定です。
ベンド展開補正長とは、板金部品を曲げ加工する際に、正確な展開図(フラットパターン)を得るための補正寸法です。板金の曲げ加工では材料の外側が伸び、内側が縮むため、単純な幾何学計算だけでは正しい展開長を求めることができません。材料の板厚や曲げ角度、材質ごとに異なる補正値を、設計者がその都度手動で入力する必要があります。
特に厄介なのが、90°以外のベンド(非90°ベンド)です。3DCADが自動付与するデフォルト値は90°を前提としたものであることが多く、80°や60°といった特殊な曲げ角度では、そのまま使用すると不適切な補正値が割り当てられてしまいます。設計者はこれを一つひとつ手動で修正しなければなりません。部品点数が多い案件ではこの作業だけで相当な時間を費やすことになり、しかも一箇所でも数値を誤れば、展開図の寸法がずれ、製造現場で初めて不具合が判明するリスクを抱えていました。
CADオペレータ教育の現場で見えた「属人化」——脱却のためのマクロ開発
今回ご紹介するのは、sokaitechnologyがCADオペレータの教育を進めるなかで生み出した「ベンド展開補正長の自動入力マクロ」です。
社内では板金加工の3Dモデリングに携わるCADオペレータの育成に力を入れていますが、教育を重ねるうちに一つの課題が浮かび上がってきました。それが、ベンド展開補正長の設定における「属人化」です。補正値は材質・板厚・曲げ角度の組み合わせによって変わるため、適切に判断・入力するには一定の経験と知識が求められます。結果として、ベテランのオペレータでなければ安心して任せられない作業となり、品質や生産性が個人のスキルに依存してしまう状況が生まれていました。
属人化が進んだままでは、担当者によって品質にばらつきが出たり、特定のメンバーが不在の際に業務が滞るリスクを抱え続けることになります。「教育で経験値を積み重ねていくのはもちろん大切。しかしそれと同時に、誰が操作しても同じ結果が出る仕組みを整えるべきではないか」——こうした問題意識から、sokaitechnologyが改善策として打ち出したのがマクロによる自動化でした。判断のプロセスそのものを仕組みに置き換えることで属人化からの脱却を図り、組織全体として安定した品質を担保できる体制づくりを目指しました。

ワンクリックで補正値を自動計算——マクロの具体的な仕組み
開発した「BendDeductionAuto」マクロは、SolidWorksのAPIを活用したVBAベースのプログラムです。操作は極めてシンプルで、ツールバー上に登録されたマクロ専用ボタンをワンクリックするだけです。
実行するとまず材質選択ダイアログが表示され、設計者は図面の指定に従って材質(鉄・ステンレスなど)を番号で選択します。その後、マクロがモデル内の全ベンドフィーチャーを自動で精査し、板厚と曲げ角度の組み合わせに応じた補正値を一括で算出・適用します。非90°ベンドに対しても独自の計算ロジックが適用され、CADのデフォルト値に頼らない正確な展開長が反映されます。
マクロの導入にあたっては、設計者が迷わず使えるよう、インターフェースの最適化にもこだわりました。ツールバーへの登録手順を標準化し、視認性の高い専用アイコンを設定することで、複数のマクロが並んでいても一目で機能を識別できるようにしています。SolidWorksの標準コマンドと同じ感覚で操作でき、特別なトレーニングは不要です。

導入がもたらした三つの効果

マクロ導入による効果は、大きく三つに集約されます。
第一に、入力ミスの根本的な解消です。人の手による数値入力をマクロに置き換えたことで、補正値の設定誤りがなくなりました。特に非90°ベンドでの誤設定が一掃されたことは、製造現場での「一発加工」を可能にし、手戻りコストの削減に直結しています。
第二に、確認工数の大幅な削減です。これまでクライアント様とsokaitechnologyの双方で行っていたダブルチェックの負担が大きく軽減されました。マクロによる自動計算の結果は一貫性があるため、検証作業そのものが効率化されています。
第三に、設計スピードの向上です。定型的な入力作業から解放されたことで、設計者は形状検討や製造性の評価といった、本来注力すべき判断業務にリソースを集中できるようになりました。
SolidWorksの「痒いところ」に手が届く開発力
sokaitechnologyでは、ベンド展開補正長のマクロ以外にも、SolidWorksの操作効率化を目的としたマクロ開発に取り組んでいます。たとえば「寸法値の小数点以下ゼロ表示を一括変更するマクロ」は、図面の体裁を整える際に頻繁に発生する設定変更をワンクリックで自動化するものです。
これらのマクロ開発では、プログラムを作るだけでなく、ツールバー登録手順やアイコン管理を含めた運用標準作業手順書(SOP)も併せて整備しています。マクロの運用が特定の担当者に依存する「ブラックボックス」にならないよう、組織全体で一貫した使い方ができる仕組みまで設計する。SolidWorks APIの深い理解と、製造業の設計現場への解像度の高さがあるからこそ実現できるアプローチです。
お客様と仲間の声を大切にする姿勢
今回の事例で特に大切にしたのは、お客様から寄せられた「困っている」という声に真正面から向き合うことでした。単に言われた通りの仕事をこなすのではなく、業務プロセスの中に潜む非効率を見つけ出し、技術力で改善を提案する。それがsokaitechnologyのものづくりに対する姿勢です。
お客様の声だけでなく、実際に手を動かす仲間であるオペレータの立場にも立ち、「使いやすさ」と「確実さ」の両立を追求しています。マクロは作って終わりではなく、実際に現場で運用される中でフィードバックを受け、継続的に改善していくものだと考えています。
SolidWorksの操作で「この作業、もっと楽にならないだろうか」と感じていることはありませんか。繰り返しの手入力、設定変更の手間、確認作業の負担——こうした現場の小さな課題こそ、マクロ開発で解決できる可能性があります。sokaitechnologyでは、お客様の業務フローを丁寧にヒアリングした上で、最適なマクロをご提案いたします。設計現場の生産性向上に向けて、まずはお気軽にご相談ください。
